Vascular Labのお知らせ

2016年10月21日

バックナンバー 『Vascular Lab』メールマガジン《30号》

■■■「Vascular Lab」メールマガジン■■■ 
            ★☆★30号★☆★
              ∞監修∞
   松尾 汎(医療法人松尾クリニック・松尾血管超音波研究室)


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■□  達人が教える今月のとっておきテクニック
□■  「急性大動脈解離のエコー診断」
■□  ∞講師 金沢大学附属病院循環器内科/吉牟田 剛∞
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 6月は、じめーっとした梅雨のシーズンですが、不快な気持ちはどこぞに飛ばして、今回も張
り切っていきましょう。
 さて、今回は大動脈弁狭窄症の治療を意識した診断について概説する予定でしたが、“大動脈”
つながりで“大動脈解離のエコー診断”について説明したいと思います。次回、大動脈弁狭窄症
の治療を意識した診断をおおくりいたします。
 さて、急性大動脈解離は迅速に診断し適切な治療を受けないと、発症から1時間ごとに1~2%
ずつ死亡率が上昇し、特にStanford A型の急性大動脈解離は24時間以内に20%、48時間以内
に30%の患者が死亡する非常に予後が悪い疾患です(文献1)。このことから救急の現場に携わ
る医師としては、常に急性大動脈解離を意識して、迅速にこの疾患を診断する必要があります。
 一般的に急性大動脈解離の診断には、造影CTがgolden standardな検査であり、臨床症状か
らこの疾患を疑った場合は躊躇せずにCTを施行することが肝要です。この疾患を疑う典型的な
症状は胸背部痛ですが、大動脈解離腔の進行によって多彩な症状(意識障害、失神、片麻痺、腹
痛、下肢虚血など)を呈するため、急性大動脈解離の迅速な診断を困難にしています。
 経胸壁心のエコーによる診断は、narrow acoustic window、肺の存在から大動脈画像描出の範
囲が限られること、さらにエコー施行者の技術の差などの問題で、この疾患の診断に適している
とは言い難いというところが実情でしょう。大動脈描出に適しているエコーwindowは傍胸骨左
縁、胸骨上窩、心窩部、腹部正中などであり、このいずれから解離のflapもしくは血栓閉塞し
た解離部分を見つけることで診断をつけます。ただし、上記のwindowのみでは、どうしても上
行大動脈、下行大動脈の描出が困難です。
 そこで皆さん方には、さらに2つのwindowからの大動脈の描出を提唱します。
 1つ目は傍胸骨右縁 windowで第2、3肋骨間にプローブを置くと上行大動脈がクリアに描出可
能となります(文献2)。ポイントは胸骨右縁にプローブを近づけることです。
 2つ目は、胸水貯留しているという条件下ではありますが、背中からのアプローチで傍椎骨に
プローブを置くと、胸水をwindowにして下行大動脈を描出することができます(文献3)。あ
くまでも胸水貯留という条件下ではありますが。
 急性大動脈解離の診断は、画像に頼るところが大きく、この疾患を疑えば造影CTで診断をつ
けるということでいいのですが、救急の現場において、腹部外傷時の初期診療における迅速簡易
超音波検査法(focused assessment with sonography for trauma:FAST)のように、上述した
アプローチを大動脈解離診断のエコールーチンの一つに入れてもらえたら、より診断が確かなも
のになるかもしれません。Try to do it!

参考文献
1)Nienaber, CA. et al. Aortic dissection:new frontiers in diagnosis and management:
Part I:from etiology to diagnostic strategies. Circulation. 108(5), 2003, 628-35.
2)Yoshimuta, T. et al. Impact of the right parasternal view with supine positioning for
echocardiographic visualization of acute type A aortic dissection. J Echocardiogr. 10
(1), 2012, 38-9.
3)Yoshimuta, T. et al. Echocardiographic diagnosis of aortic intramural hematoma via the
posterior paraspinal window. Internal Medicine. 49(1), 2010, 629-30.

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■□  達人久保田のバスキュラーラボ立ち上げ日記
□■ ∞北播磨総合医療センター 中央検査室/久保田義則∞
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★☆震災の混乱が少し落ち着きはじめた頃☆★
 5/27~29日に京都で日本超音波医学会総会が開催され、主催者側から大変多くの方に参加い
ただけたと発表がありました。被災地からも多くの先生方に参加いただけたようで、少し安心し
ています。今回学会の血管領域で目立ったのは、メインホールでのシンポジウムが3題あり、血
管シンポジウム後の閉会挨拶に多くの参加者が残っていてくれたことが嬉しく思いました。すべ
ての血管のセッションにおいて、多くの方に参加をいただき、関心の高さを実感できた学会でも
ありました。検査を始めたばかりの方も、長く続けておられる方も、「とりあえずいつものやり
方」ではなく、考えながら手順を進めることが技術向上につながることを再認識していただきた
いと思います。そして、技量確認のためにも、超音波検査士の資格取得をぜひ多くの方に目指し
ていただきたいと思っています。血管疾患や血管エコーの取り方、そして、血管エコー報告書の
書き方などをしっかりと自分の知識にして、検査士仲間になってください。『Vascular Lab』(メ
ディカ出版)のバックナンバーをはじめとして、多くの参考書籍が出されています。わかりやす
いものを検索してみてください。当院では、今年も7月にABI測定を主軸とした市民公開講座を
予定しています。皆さまの地域でもぜひ開催できるよう働きかけをお願いします。


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■□  Vascularゼミナール
□■ ∞出題者 金沢大学附属病院循環器内科/吉牟田 剛∞
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【問題1】正しいのはどれか? 2つ選べ。
a 急性大動脈解離は外膜の解離である
b  Marfan症候群は上行大動脈瘤を認める
c バージャー病は喫煙歴のある50歳未満の発症である
d 大動脈炎症候群(高安病)では肺動脈まで侵されることはない
e 急性下肢動脈閉塞の患者において、下肢の感覚消失があっても救肢の可能性は高い

【問題2】足関節上腕血圧比(ABI)を積極的に施行すべき対象者について正しくないのは
どれか?
a 51歳の糖尿病患者
b 64歳男性
c 55歳の喫煙者
d 労作時の下肢症状または全身機能の低下
e 心血管系のリスクの存在

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 ▼▼Vascularゼミナールの解答▼▼       
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【問題1】答え b、c
a. 大動脈解離は大動脈壁が中膜レベルで二層に剥離し、動脈走行に沿ってある長さを持ち
二腔になった状態である。
d. 大動脈炎症候群では肺動脈まで侵されることがある。
e. 急性下肢動脈閉塞発症の患者において、下肢の感覚消失の所見があれば重症度クラスは
III度で救肢の可能性は低い、予後は広範囲な組織欠損または恒久的な神経障害が不可避で
ある。

【問題2】答え b
 ABIを施行する患者、年齢について問うた問題である。
 一般的に喫煙、糖尿病、高齢、腎不全、脂質異常症、高血圧症などを有する患者はASO
のリスクが高いため、積極的にABI検査を施行すべきである。
 日本循環器学会のガイドライン上、ABIを積極的に施行すべき対象は、①50~64歳で喫煙また
は糖尿病を有する、②65歳以上、③労作時の下肢症状または全身機能の低下、④下肢血管検査
の異常、⑤心血管系のリスクの存在となっている(日本循環器学会 末梢閉塞性動脈疾患の治療
ガイドライン2015年改訂版より)。よって正しくないのはbである。


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 マガジン名:Vascular Lab
 発行:毎月1回1日
 発行責任者:渡邊亜希子・柚木尚登
 発行元:メディカ出版
 関連URL:http://f.msgs.jp/r/c.do?fqI_iU_Du_rqy
 e-mail:vascular@medica.co.jp
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