山野穴太のいまどきナースこぼれ話

2017年09月04日
第115回 においのマナーは難しい

最近、また三遊亭小遊三の「千早振る」を聞いた。あらすじは(と、字数を稼ぐ算段をする)、娘に在原業平の歌「千早ぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」(小倉百人一首)の意味を聞かれた八五郎が隠居に教わりに来たが、この隠居もこの歌の意を知らずに、即興で珍解釈を披露するという話である。

 曰く、江戸時代、大関の「竜田川」が吉原へ遊びに行って、「千早」という花魁に一目ぼれしたが、千早は力士が嫌いなので、竜田川は振られる(「千早振る」)。次に妹分の「神代」に言い寄るが、こちらも言うことを聞かない(「神代も聞かず竜田川」)。このため成績不振となった竜田川は、力士を廃業し、実家の豆腐屋を継いだ。それから数年後、店に女乞食が来て、「三日三晩なにも食べてないから、おからを分けてくれ」と言う。その乞食が落ちぶれた千早太夫の成れの果てと知って激怒した竜田川は、おからを投げ捨て、千早を突き飛ばした。千早は、井戸のそばに倒れこみ、こうなったのも自分のせいと井戸に飛び込み自殺した。(「からくれないに水くぐる」)。八五郎は隠居の解説に首をひねり通しで、最後の『とは』は何です」と突っ込んだ。とっさに隠居は「千早は源氏名で、本名が『とは(とわ)』だった」で、オチとなる。

 わが輩はこの話が大好きで、かわいい雌猫2匹に「千早」と「神代」、小太りのもたもたした融通の利かない雄猫に「竜田川」とつけたいのだが、残念ながら現在、わが家に該当猫はいない。かといって、さらに仔猫を保護するのは、ボランティアの方が猛反対である。まあ、70匹になんなんとするわが家ではさもありなん。最も、命名しても、その由来を説明するのが面倒である(笑)。

 さて、本題。
 匂い・香りについてである。ヒヨコは入所式、その他、事あるごとに、化粧や香水は禁止ですと、お偉いさんから注意を受けてきた。それも、茶髪(しっとりした栗毛)に染めたお偉いさんからであるから、鼻でせせら笑いながら聞き流しているらしい。匂いに関して、香水がダメなのはわかるが、最近はそれだけ注意していればよいというものでもないらしい。柔軟剤の匂い、その他、匂いの強い制汗剤やシャンプーなど、世間にはいろいろ出回っている。

 さて、「香水がダメなのはわかる」と書いたが、それはあくまでわが輩や一般的な職員、患者さんがわかるのであって、当の本人は、それほど強い匂いではないから大丈夫だろうと思っている。また、化粧はダメだとお偉いさんは言うけど、ご自分はノーメイクですか?違うでしょう。だいたい、ノーメイクで人さまの前に出て応対するなんて失礼でしょう。社会人として非常識ではないですか。そんな真似はできません。そんなことまでいちいち言うのは、セクハラ・パワハラではないですか、と逆ねじを食らわしてくる者もいるらしい。

 ほとんどのナースは、うっすらと、あまり目立たぬように化粧をしていて、匂いもほとんどない。我々、年寄りの医者にはわからないが、それをナチュラルメークというらしい。確かに、ノーメイクで疲れた表情を患者さんに見せるより、ある程度化粧をして明るく見せるほうが、相手に不快感を与えないのかもしれない。しかし、それでも接近すればかすかに匂うこともある。つまり、“これくらいならOK”というように、どこで線を引くかの問題ではなかろうか。

 まあ、ナースの場合はある程度自覚もあり、上司も同性のことが多いので、セクハラと問題にされることはないであろう。これが女医さんの場合は若干難しい。院長や事務長(ほとんどが男性)は、あまり注意をしたがらない。セクハラと逆ねじを食らわせられることがあるからだ。

 さらに、患者さんの場合はもっとやっかいである。得てして、大きな病院に来られる患者さんで、特に初診の場合、失礼に当たらないようにと気を遣って、おめかしをしてくることがある。なんといってもお客様である。「香水きついですよ」「お化粧濃くないですか」などと注意などできるはずもない。せいぜい、診察室や検査室から退出されたあと窓を開けるとか、空気清浄機(そんな気の利いたものを各診察室などに置いている病院など少ないが)を最強にするとか、消臭スプレー(これとて匂いを出すものもある)を多めに噴霧するしかない。いやはや、難しい。

 かくいう小生も、猫の匂いがついてないか気になるし、洗濯の際は柔軟剤を使う。匂いを気にして匂いで消して、結果、それが周りを不快にさせるかもしれないとは、いやはやまったく住みにくい世の中である。