学会レポート

2017年04月27日

第3回国際ケアリング学会(2017.3.25-26)

 2017年3月25日(土)・26日(日)、久留米シティプラザにて「Caring and Practice ケアリングをどのように実践していくか」をテーマに、第3回国際ケアリング学会が開催された(大会長:聖マリア学院大学名誉学長・人間総合科学大学学術顧問 矢野正子氏)。学会には名誉会長であるJean Watson(ジーン・ワトソン)氏が招聘され、2日間にわたり講演やシンポジウムを通して、ヒューマンケアリングの理論とその実践が伝えられた。その一部を報告する。

■名誉会長講演

 名誉会長講演「ケアリングの実践からカリタス・プラクシス(慈しみ深い愛の実践)へ」では、冒頭に1本のキャンドルの映像が映し出された。ワトソン氏はケアリングについて伝えるとき、キャンドルに灯をともし、世界を照らす「心」を思い起こすという。会場の関係上、映像での点火となったが、参加者とそのともしびを分かち合い、共にケアリングの世界に入っていくという空気を共有しながら、講演がスタートした。
 ワトソン氏は、ケアリングを行うということは、平和をもたらすということである。すべての人は思いやりのあるケアを受ける権利があり、看護は、単なる慣例的なケアを実践するものではなく、“カリタス・プラクシス”によってヒーリング(身体、心、魂の調和がとれており、宇宙のエネルギーとも調和がとれている状態)をもたらし、高みへと導くものであるとした。
 ケアリングは、10項目のカリタス・プロセスで表現でき、世界各国で実践されている様子も紹介された。会場からは、日本の病院でカリタス・プラクシスを実践するにはどのように進めていけばよいかという質問が出され、ワトソン氏は、カリタスコーチのプログラムがあるが、それを受講しなければいけないというわけではなく、病棟単位でもケアリングモーメントを分かち合い、それをカリタス・プロセスとつなぎ合わせていくことで実践として実感できるのは、とアドバイスを送った。

■交流集会

 交流集会では、文部科学省平成24年度大学間連携共同教育推進事業「多価値尊重社会の実現に寄与する学生を養成する教育共同体の構築」の報告および、学生交流集会「ナーシング・キャリアカフェ・特別版」が行われた。本事業は、福岡・沖縄の8つの看護系大学が連携し、一大学ではなし得ない高度な教育と質保証のシステム構築に取り組むものである。たとえば、看護学生に、単一価値ではなく「しなやかな使命感」を育成する教育の一環として、卒業生やスペシャリストと交流するナーシング・キャリアカフェがある。本学会ではその特別版として、聖マリア学院大学看護学部の学生による「熊本地震を経験した看護師の体験を聴く-傾聴ボランティア活動を通して学んだこと-」が行われた。
 聖マリア学院大学では学生が主体となり、熊本地震発生2カ月後から熊本市の病院で患者や看護師を対象にした傾聴ボランティア活動を行ってきた。2017年2月26日現在、訪問回数12回、学生の延べ参加者数74名、院生や教員を加えると154名の参加者数となっている。地震発生時の2016年4月14日、自らも被災者である看護師が何を思い、判断し、行動したのか、当初を振り返って今何を思うかについて語ってもらうなかで、看護師、母親、高齢となった両親をもつ子どもなどの役割の間で葛藤し、苦しんで意思決定をしていたことを知ることができたという。また、地震によって地域の人々がお互いに関心をもつようになり、コミュニケーションが増え、つながりができたことも見えてきた。なぜ、このようなことが生じるのか、自分たちで考えを深めるとともに、被災者でありながらケアの実践を続けている看護師の姿を誇りに思い、専門職としての意識の高さを学んだ。
 交流集会に参加していた他大学の学生からは、「積極的に取り組んでいるみなさんの行動力や熱意に感動した」「自分は何もしていないのに尊敬する」「同じ学生として多くの刺激を受けた」「ぜひ自分も参加してみたい」など、次々に想いがあふれる発言がきかれ、集会後の交流を約束する場面もあり、会場は熱気につつまれていた。

■シンポジウム「Caring and Practice」

 シンポジウム「Caring and Practice」では、朝倉由紀氏(Centura Health)による「緩和ケア-カリタス・プラクシスによる真正なケアモデル」、堀内成子氏(聖路加国際大学、聖路加産科クリニック)による「患者と医療者関係の力の差を縮めるために」、髙木廣文氏による「ケアリングの看護実践教育のために日本人の精神生活を考える」と題した講演の後、ワトソン氏を含めた意見交換が行われた。
 朝倉氏は、ここ数十年で飛躍的に拡大してきた緩和ケアは、患者中心のケアに不可欠なものであり、医療チーム全体が価値観に基づく決定に焦点を当てられるようにするものである。緩和ケアの原理はカリタスと一致しており、ケアリング理論が緩和ケアの優れた哲学的基盤としての役目を果たしているとした。
 堀内氏は、タンザニアで行った調査で、産婦が助産師などの医療者に自らの希望を伝えることが難しく、また未婚の若い産婦が妊娠を叱責されたり、事前の同意なく内診や会陰切開などの侵襲的な治療を施されている実態が明らかになったと報告。真の女性中心のケア実現のためには、医療者側が無自覚的に作り上げてしまう前提を再検討し、患者のこころと身体の両方を尊重したケアを考えることが必要不可欠であるとした。
 髙木氏は、「根っからの仏教徒」である日本人には大智、大慈悲の心があり、他者の苦を除き楽を与えようとする願いがある。これはケアリングの看護に極めて整合的であり、日常では意識していない日本人のこのような考え方は、教育による意識化が可能である。全人的な人間性教育が有効ではないかと提言した。

 次回は、2020年3月28日(土)、29(日)文京学院大学(東京)にて開催予定。


教科書・副読本編集課 平野 裕子)